日本の住宅事情が厳しいことは世界でも有名だ。日本の家屋はウサギ小屋と呼ばれ、私もアメリカでの留学時代に、同情のこもった瞳で現地の友人に「日本の家って狭いんでしょう？気の毒ねぇ」と言われたことがある。だから私も、こんなに狭い家はてっきり日本くらいなのだろうとある頃まで思い込んでいた。

15年くらい前だろうか、夫の友人の住むパリを訪れた。私たちは年代物のアパートが建ち並ぶ小道を歩いていたら、ある部屋の窓が開いていた。好奇心から覗いてみると、家族4名が、おでこが着かんばかりに額を寄せ合って、小さなテーブルを囲んで朝食を取っているところだった。あまりに狭いキッチンとダイニングに私は驚愕した。そして家が狭いのは日本だけじゃないということを理解した。

パリの住宅事情が厳しいのは、すでにご承知の方も多くいらっしゃるだろう。パリには一軒屋はほとんどなく、あるのはアパートばかりだ。古いお屋敷のような見た目の建物も中は分譲されて、アパートとして使われているものがほとんど。大昔に作られた建築物が多いので、古いらせん階段の中央の空間を利用して、人が二人ようやく乗れる程度のエレベーターが無理やり作られていたりする。しかも昨今はパリは非常に過密状態でアパートを探すのも一苦労だという。

そんなパリの狭小アパートの一室を今回ご紹介したいと思う。
パリの建築物は先にも述べたように、古い建築が多い。古い建築物は通常天井が非常に高いのが常だ。今回のアパルトマンもこの高い天井を有効利用して作られた。

このアパートのインテリアデザインを手掛けたのが、フランスのパリを拠点に活躍するデザイナー、ジェラルディン・ラフェルテだ。彼女は他にもさまざまなアパートなどのインテリアデザインを担当している。

キッチン、ダイニング、リビング、書斎、ベッドルーム、バスルーム、そして収納などをすべて詰め込むには、18㎡は、かなーりタイトなスペースだ。さてその難問を彼女がどう解決したのか、家の中を探検してみよう。

玄関を入るとすぐリビングがある。そしてリビングの横にはキッチン、そして奥にはバスルームがある。部屋の中は白を基調にパインの木目のコンビネーションとなってとても明るい雰囲気だと感じる。部屋のアクセントには黒が使われている。部屋には窓がひとつしかないので、明るい色が部屋に広がりを感じさせている。

まずは、入ってすぐのリビングを見てみよう。二人掛けのソファーと独り掛けのボックスチェアが2つと黒いコーヒーテーブルがあり、壁面には天井まで届く収納がある。あれ、この部屋には確かベッドルームと書斎もあったはずなのに……と、見渡してもどこにも見当たらないではないか。

そこがジェラルディン・マジックだ。二人掛けのソファーの下の空間に黒いコーヒーテーブル、そして2つのボックスチェアがすっぽりと収まるようにできており、二人掛けのソファーの真上の壁面だとばかり思っていた木製の壁を倒すと、なんとダブルベッドが飛び出てくるではないか！足元にはメタルの脚がついていて簡単にベッドが出せるのが良い。

そして書斎はというと、ソファの横の壁面の収納の取っ手部分を引っ張るとなんと、テーブルが出てくる。ここに椅子を置けば、あっという間に書斎に早変わりだ。なんだここは忍者屋敷か？と、思わずうなってしまう。

次にダイニングキッチンを見てみよう。キッチンはこじんまりした小ぶりな造りだ。キッチンの横にはパインのダイニングセットが設えてある。このダイニングセットにはまたしても秘密がある。ダイニングテーブルは折りたたんで壁に収納でき、収納時はまるで木製の額のようになる。真っ白なダイニングチェアも、ダイニングテーブルの周囲にある収納に併せて壁面に並べることで、まるでひとつの壁面収納のように様変わりする。

他の空間とうってかわって、漆黒に塗られた階段を数段登ると、これまた真っ黒なタイルで造られているモダンな造りのバスルームがある。

「一粒で二度おいしい」が次から次へと体験でき、18㎡とは思えないこの充実っぷり。日本のアパートにもこんなアイデアはどうだろう？

Via:
geraldinelaferte.com
apartmenttherapy.com
divisare.com
houzz.jp